いよいよ、今年も残すところあと2日となりました。
振り返ると、今年は1月の著書の刊行を皮切りに、3月に初めてアルクとして編集に携わった書籍『はじめてのテキーラの教科書』(主婦の友社)が刊行前に重版。
その後も『日本の美しい色』(河出書房新社)、『ガラス図鑑』(平凡社)、『論理的音楽鑑賞』(ヤマハ)の3冊同時刊行など、複数の出版社さんからさまざまなジャンルの書籍の編集を担当させていただきました。
一つ一つの書籍に思い入れが強いため、感想を言い出せばキリがないですが、、、今年最後にヤマハさんから届いた『月刊ピアノ』を読んでいると無性に文章が書きたくなり、(仕事納めは済んでいますが、)結局パソコンを開いています。
『論理的音楽鑑賞』は、当社の親会社であるSDアートの代表・堀越啓が提唱する「論理的美術鑑賞」の手法を音楽に応用したものです。
一見すると、フレームワークを用いて芸術の背景を整理することから「芸術(美術・音楽)の鑑賞術」を解説する「テクニック本」と思われるかもしれません。が、全くそうではありません。
「音楽に特化した本」ともひと味違い、文芸や政治、宗教の違いなどの「お国事情」を浮き彫りにすることで、音楽に対するニーズや発展の変遷が理解できる、いわば「教養」のジャンルに含まれる書籍です。
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当社は私が事業継承をする前から、今も変わらず「文化を出版する」という理念のもとで、知識を育む教養本を数多く生み出してきました。
今年最後に刊行した『論理的音楽鑑賞』はまさに、それを具現化したものだと感じています。
”キーポイントは、「顧客は誰か」ということです。古典派以前の時代、王侯貴族や聖職者のために作られていた音楽は、ベートーヴェンの時代に市民の共感を呼ぶものへと変化します。
これは、私たちが普段考えている以上に重い意味があり、音楽そのものを従来とは全く別物にしていきます。
社会の未来を牽引していく主役が誰になるか、という視点は、音楽のみならず芸術一般に関しても非常に大切なこと。
そこに注力して考察したので、みなさんも意識して読んでいただけたらうれしいです。
(『月刊ピアノ』2025年1月号100頁 玄馬絵美子のインタビュー内容より抜粋)
上記は、『月刊ピアノ』の2025年1月号に掲載されている『論理的音楽鑑賞』の著者インタビューで、著者の一人である玄馬絵美子さん(というと違和感がありますが、実姉です)が、特に時間を割いて話していた「本書を楽しむポイント」です。
音楽の入門書として、非常に分かりやすい文体で書かれている本書。実は「顧客」にフォーカスして文章を読み解くことで、音楽に限らず芸術の見え方が深まると、絵美子さんは言います。
さらに面白いことに、次は「宗教」「関連する人物」「思想」など、再読する度にフォーカス・ポイントを変えてみることで、新しい発見に出合えます。
この「読み返すごとに、ちがう発見(知識)が得られる」ことも、論理的音楽鑑賞の醍醐味のひとつだと、読者目線で見ても(編集者目線で見ても)感じています。
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文芸評論家の三宅香帆さんの著書、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(2023年,集英社新書)では、2020年代初頭の現在、数少なくなってしまった「読書する人々」の中でも、読書を「娯楽」ではなく、処理すべき「情報」として捉えている人の存在感が増してきた、と指摘しています。
それは、書店の棚では常に「速読本」が人気で、さらにビジネスに「使える」読書術が注目されているなど、「仕事に役立つ読書法」をはじめとした、速く、効率の良い情報処理能力が読書に求められていることからも明らかです。
”コントローラブルなもの(自分次第でどうにかなること)に集中して行動量を増やし、アンコントローラブルなものは切り捨てる。
それが人生の勝算を上げるコツ。”
2017年にベストセラーとなった前田裕二さんの『人生の勝算』では、「とにかく行動することが大事」だと語られ、行動力に関するエピソードが多数掲載されていました。
「行動重視」の傾向は、同様の時期に刊行された『結局、「すぐやる人」がすべてを手に入れる』2015年(藤由達蔵,青春出版社)、ホリエモンさんの『多動力』(2017年,幻冬舎)などがベストセラーになっていることからも顕著。
何より、2016年に起業した私自身も多いに影響を受けました。(もともと多動の性質はあったけれど、それがより強くなった)
確かに、マルチタスクなどの多動を行うためには、いかに無駄な情報を除外して、いま必要な情報を得られるかが、大事になってきます。
しかし私自身は、「情報収集」を目的とした読書を続けていた結果、いつのまにか本を読んでいても「読書している」と感じることがなくなっていました。
読書が、仕事の一部になっていたのです。
出版事業をしているため、「読書も仕事の一部」という感覚は、当然かもしれません。
それでも『論理的音楽鑑賞』は、そんな私の知的好奇心を満たし、再び「本を読む楽しみ」に気づかせてくれた至極のシリーズになりました。
せっかくの大型連休となる年末年始。
ビジネス書などの「すぐに役立つ書籍」だけではなく、普段読まないジャンルの本にも手に取って、読書する愉しみを味わう時間を過ごしたいものです。
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久しぶりの投稿で、思わず長文になってしまいました。
そんなこんなで、来年も書籍に限らず、さまざまな企画に携わります。
ぜひ今後も当社が関わる企画を楽しみにしていただければと思います。
どうぞ佳いお年をお迎えくださいませ。
加納亜美子